ちょっと一息いけるぅよ

ちょっと一息いけるぅよ

海外で学校生活を送ってます。面白いなって思ったこととか役にたちそうことを定期的に吐きます。ややホームシックなので優しくされると元気になります。

初心者がちょっと小説書いてみた! no.2 ~今回は割と自信あり編~

はろーごきげんよういけるぅよですっ!

 

先日は都立高校の推薦受験おつかれさまでした!

 

 

そして次は一般入試ですね!あとは二次試験。全国の高校、大学受験を控えてる受験生の皆さん頑張ってください!

 

 

 

さて、急にブログに帰ってきて久しぶりになにが言いたいのかと言いますと、、、

 

 

 

 

 

いつしかあげた

ちょっと小説書いてみた。

 

ikeruwyoo.hatenablog.jp

 

 

って記事はご覧になられましたでしょうか?

 

あの友達が書いたやつです。ねこの。ジョージだっけ?

なんかそんなやつです

違ったらごめん(なさい)振り返るのめんどくさいっす汗

 

 

もし!読んでくださった方がいて、かつ次回作を待っていたという皆さん。

 

 

 

お待たせいたしました第二段です!

 

 

 

 

待ってない人もちょっと足を止めてみてください!

 

 

どうせこんなブログ見るくらいだからほんのちょっとは時間があるんでしょう?

 

 

 

五分間少々おつきあいください!今回は結構おもしろいです。

 

 

 

前回のはなんか村上春樹を意識したのかな?ちょっと読みにくいし、いまいち物語に入り込めない、なんて感想を抱いた方が多いんじゃないでしょうか?

 

 

 

 

安心してください。今回は前回に比べて圧倒的に面白いしじわじわ引き込まれます。

 

 

こんなこと友達に言うのはちょっと癪ですが、おもしろい。

 

 

「書けたー」っていってすぐに読み始めてから止まらずに読み入ってしまいました

 

 

 

 

単純に僕がバスケ部ってのもあるんだと思うんですが、それを差し引いてもおもしろい。

 

ハードル上げ過ぎかな? ってか前置き長過ぎかな←

 

久しぶりにPC触ったら止まらなくなってしまいました。

 

 

 

 

すこーしハードル下げてからいい加減作品張りたいと思います。

 

彼にとっては二作目だからかまだ登場人物のキャラが安定していない気がします。そのこともふくめて前回同様コメントくれたら喜ぶと思います。

 

 

そんじゃいきまーす、どうぞ!!

 

 

 

第1章

 

都内にある某私立へ入学した青山は入学式の最中であった。 「えー。君達もね、このS高校に入学したからにはS高生としてのね自覚をねちゃんとね‥」 中学だろうと高校だろうとどこの校長だろうと話は下らなく長いものだ。青山はいくつもの高校を受験し、全てことごとく落ちて第一志望よりも遥かに学力の劣るS高校に入学したのであった。しかし、青山は新しい環境に少し希望も持っていた。周囲を見渡しこれから自分の人生を左右するであろう三年間が始まることを自覚し、自分に喝を入れた。始業式も終わり、自分のクラスを確認した。 「C組か。」 C組というのは入試で得点の高かった生徒が集まるクラス、いわゆる特進クラスである。まぁ難関校を目指していた青山にとっては当たり前のことであった。これから青山の波乱の三年間が始まる。

 

 

第2章

 

「今日からC組の担任になった日野田だ!よろしくな!」 体格は細くスラっとしているがどこか芯の通った二十代の体育教師であった。 「‥今日はこんなところで解散にしようか!っと言い忘れてた明日から部活見学が始まるから各自で心の準備をしておくように!以上。」 「起立!礼!」 今日決まった学級委員の鶴井の号令でホームルームは終わった。自分はどの部活に入ろうなどと考えているうちにクラスメートはもう既に徒党を組みだしていた。しまった!と思った時には既に時遅し、どこのグループにも入る余地はなかった。 「君もタイミング逃した感じかな?」 と鶴井が話しかけてきた。 「僕も学級委員だから先生と話してたらもうどこにも入れなくなっちゃって。」 少しはにかみながら言ってくる鶴井はとても柔和な雰囲気で誰でも受け入れてくれるようなそんな感じがした。身長はそんなに高くはないがいわゆる爽やか系イケメンというような顔立ちであった。 「名前‥教えてくれないかな?」 「青山。青山タクト。」 「タクトか!よろしく!俺は鶴井サトシ。サトシって呼んでくれよ!」 僕らは固い握手をした。 「ところで、タクトは中学は何部だったの?」 「俺はバスケ部だったけど。」 「バスケ部!?一緒じゃん!」 「ほんとかい?じゃあ明日一緒に部活見にいこうよ!」 「そうしようか!」 屈託のない笑顔をサトシは浮かべながら肩をボンボン叩いてきた。僕もサトシに嫌な気はしなかったので同じように肩を叩いた。

 

 

第3章

 

「あぁ、緊張するなぁ。」 体育館へ向かう道中サトシはそれしか口にしていない。 「タクトは緊張しないのかよ。もう俺なんて心臓バックバクだよ。」 「俺だって緊張はしてるさ。」 「そんな風に見えないよ!不安だなぁ。」 自分は昔からあまり感情が表に出るタイプではなかったのだ。 キュッキュッという音が徐々に大きくなってきた。ガラガラッとサトシは勢い良く体育館の扉を開けた。 「よろしくおねがいしまぁーす!!」 もう既に新入生は揃っていてぎこちない会話をしていた。 「こんちわーーーーす!!」 先輩方が声を出した。顧問の先生が来たようだ。 「今年は少し人数が少ないな。新入生は一列に並んで自己紹介をしろ。」 「ポジションはセンター斎藤ミズキです。」 とても背が高いが筋肉量はあまりなく内気なように見えた。その後数人の紹介が終わり、そして自分の順番が来た。 「青山タクトです。ポジションはガードです。」 「鶴井サトシです。ポジションはガードです!よろしくお願いします!」 そいえばサトシもガードなのか考えてもいなかった。 「とりあえず一年は今日は端で見ていてくれぇ。」 ちぃ、あわよくばボールを触れるかと思ったのだが三年生の引退も近いのでしょうがないとも思った。キャプテンらしき三年生が 「よし、ゲームやるぞ!」 タクトも退屈していたのでちょうどよかった。試合を見ている最中タクトは一人の先輩をずっと目で追っていたことに気がついた。とても華のあるプレイとは言えないが、がむしゃらにボールに絡んでいくスタイル、そしてコート上で誰よりも声を出し、誰よりも走っていた。 「タクト?先輩たちすごいね。俺らも頑張んなきゃな。」 「あ、うん。」 タクトは気づいてはいないがこの時点でこの先輩はタクトの理想のプレイヤーとなっていたのだ。 「じゃあ時間もあるから1年生も着替えていることだしゲームでもしちゃおうか。」 よっしゃなどと小声で言う者や、ガッツポーズを取る者、様々であった。 「じゃあそこのでかいの二人は別れろー。あとは適当にお前らが決めろー。」 と顧問は言って体育館をあとにした。 「タクトっ!同じチームだね。」 「そうみたいだね頑張ろう。」 周りを見てみるとさっきの背の高い斎藤は相手チームにいた。 「じゃあ、ジャンプボールから始めるぞ。」 と先輩が言った。ボールが先輩の手から離れて宙へ舞った。

 

 

第4章

 

「すげぇよ!タクトそんなに上手かったなんて!おまけにわけわかんないくらい速いし!」 「落ち着けよ。俺よりあのノッポだろ。ああ見えて勝負どころしっかりわかってやがる。緩急が上手い。何よりパワーがある。」 タクトは拳を握りしめながら言った。 「でもタクト方がすごかったって!」 タクトは正直バスケに自信を持っていたし、自分と同等の選手がいるとも思ってはいなかった。しかし、斎藤に五分或いは劣勢の試合をしていたのだった。タクトは密かに斎藤への闘志を燃やしていたのと同時に嫌悪感も抱いた。仲間のミスの時のリカバーや無理であろうルーズボールへの執着心の無さ。タクトが絶対にしないことであった。それにしてもサトシのお喋りにはウンザリしてきた。その上サトシは僕の最寄駅の3つ前というなんともいえない気持ちになった。 「ねぇ!タクト聞いてた?」 「すまん。何も聞いていなかった。」 「まぁそうやって素直に言われると逆に悪い気はしないよ。あぁ俺ももっとうまくなりたいなぁ。なんかない?」 「なにかと言われても‥まぁ武器だよね。」 「武器?」 「自分だけの武器を見つけること。誰にも絶対に負けないポイントで勝負していくこと。」 「なるほどねぇ。」 サトシは分かってるのかどうかよく分からない返事をした。 「なんか頑張ってみるよ!ありがと!」 と言い残してサトシは嵐の様に去っていった。 「ふぅ。」 とほっと一息ついた時 「なんかすげぇ奴だなあいつ。」 振り返るとそこには中学の時の無二の親友タクミであった。 「ひさしぶりじゃないかタクミ。部活はどうだい?」 「部活ね。今はアメフトをやっているよ。」 「アメフト?」 タクトはとても驚いた。タクミは相当なシューターでもあったしタクトと一緒に県選抜に選ばれたほどの実力者なのだから。 「まぁ人生楽しんだもん勝ちって昔から言ってるだろ?」 タクミは昔からこうだ。楽しめればいい。だが、のらりくらりとやるのとは違う。真剣にやってその上で楽しむそれが彼の流儀であり、タクトがタクミに惚れ込んだポイントでもあるのだ。 「まぁ、お前が決めたことだ。俺はとやかく言うことはしないよ。頑張れよ。」 と言いながら片手を上げて別れを告げた。タクミは最寄駅が一つ先なのだ。タクトの心にふつふつと湧き上がるものがなお一層大きく燃え上がったのであった。

 

 

第5章

 

三年生は引退をし、二年生主体のチームとなった。キャプテンはカケル先輩、副キャプテンはそうソウタ先輩である。二人の仲は非常に良くチームの雰囲気もとても明るかった。タクトはメキメキと頭角を現し合宿前にはもう既にスタメンをほとんど確約されている状態だった。しかし一年生で試合に出れそうなのはタクトだけではなかった。斎藤である。のらりくらりと練習をこなすだけのようなプレイヤーであるのにも関わらず実力だけはある。タクトの最も苦手とするタイプだ。タクトはこの頃徐々に先輩とも親睦を深めていた。一番仲良くなったのはカケル先輩であった。試合中はとても熱くよくタクトとも口論をするくらいヒートアップする時もある。その都度ソウタ先輩が止めに入ってくれるのだが。しかし、コートを出れば試合中の無礼も全てなかったことの様に話しかけてくれる、そういう寛大なところにタクトはどんどん引き込まれていった。コート内外でカケル先輩には惹かれるところが多かった。自分もゆくゆくはそういう先輩になっていきたいと思ってた。

 

 

第6章

 

タクトは横浜に来ていた。タクトには中学から付き合っていたカンナという女性がいた。これから夏合宿が始まり、練習試合も立て続けに入っているので久しく会えなくなるのであった。カンナはタクトの心の支えであった。タクトが弱気な部分を見せる唯一の相手かもしれない。 「私、お腹減ったよ。」 「そうだなぁ、中華街で何か食べようか。」 中華街に歩を進めると徐々に鼻をくすぐるような良い匂いがしてきた。 「タクト見て、とても美味しそうだわ。」 彼女が指を指す方には口いっぱいに小籠包を頬張る家族がいた。 「どこに売ってるのかな。」 「とりあえず探しましょうよ。」 「ところで最近部活はどう?」 そういえばカンナとバスケの話をするのは久々であった。元々カンナはバスケ部のマネージャーであり、試合終わりには的確なアドバイスを受けたものであったが、高校に入ってからというもの彼女とバスケの話をするのは必然的に減っていったのであった。 「このままいけばスタメンは取れそうかな。」 「またそんなことばっかり言って、慢心はタクトの悪いところだって前から言ってるでしょ?」 と肩を小突かれた。確かに慢心で損をしてきたことなど数え切れないほどある。 「次の大会私の高校と試合することになったら面白いのになぁ。」 そういえばカンナは今A高校で男バスのマネージャーをしていると言っていた。 「そしたら久しぶりにカンナにアドバイスでも貰えるのか」 「そんなことしてタクトが上手くなって強くなったら困るからやらないよ。」 と言いながらお互いの肩が触れ合う。良い匂いがした。シャンプーだろうか。少し先に小籠包の旗が見えた。 「タクト!見てよ見つけたよ!」 そんなこんなしているうちに日が暮れてきた。タクトは日が暮れたら観覧車に乗ろうと朝から決めていてここ三十分程緊張してまともな会話ができていなかった程である。 「あ、あのさ」 「なに?」 ニヤニヤしながらカンナが顔を覗き込んできた。彼女のこの顔ほど憎たらしいものはないほどだ。 「観覧車に乗ろうよ。」 「え、聞こえないよ?」 「だから、観覧車に乗ろう。」 「ん?なに?」 まだカンナはニヤニヤしている。 「だから!」 と言ったときにはもうカンナは走り出していた。 「早くこないと置いてくよ!」 タクトも急いで夜の暗闇の中、街灯の光だけで照らされているカンナの小さな背中を追った。

 

 

第7章

 

さて夏合宿が始まった。今一度自分に喝を入れた。 「タクト、夜ご飯なんだと思う?俺はカレーと予想した!」 と一気にやる気が削がれた気がした。 「合宿の部屋割り俺ソウタ先輩と一緒だ。」 タクトも部屋割りが気になり調べるとカケル先輩と一緒であった。今日は午後軽い練習をしただけで終わりであった。部屋に行くとカケル先輩が居た。 「先輩風呂行きました?」 「まだだわ。タクト行こうぜ。」 嬉しい誘いであった。浴場は大したことはなかったが露天風呂があった。時間帯が良いのか他の部員はまだ来ていない。 「誰もいないっすね。ラッキー」 タクトと先輩は大きな露天風呂にたった二人で浸かっていた。するとカケル先輩が 「お前スタメンで使われたいか?」 「もちろんですけど。」 本音であった。が、この人が何を考えているのか全く読めなかった。 「そしたらこの合宿次第で俺が監督に言ってやってもいい。お前のプレイ次第だが。」 「先輩何を考えているんすか?」 「いや別にぃ」 と先輩もまたニヤニヤしながら言ってきた。何とも憎らしいがどうしても嫌いにはなれないのだこの表情を。するとちょうど他の部員が続々と入ってきたので、先輩は何か目でタクトに語りかけ出て行った。 「タクト!今日の晩御飯カレーだったよ!すごくない??」 「お、まじか。カレーは久々だな。」 とだけ言って風呂を上がった。きつい合宿も最終日を迎えた。この日は監督の意向でスタメンチームと準スタメンチームでの試合となった。スタメンチームにはカケル先輩、ソウタ先輩を始め二年生が入っていた。そしてタクトもスタメンチームであった。斎藤とサトシは準スタメンチームにいた。 「タクト。次の試合では俺と代わってるからな!」 いつになく真面目な語調であった。きっと悔しかったのだろう。試合が始まるとカケル先輩の圧巻のプレイやソウタ先輩の落ち着き払ったプレイ、などスタメン組の強さを見せつける形になった。タクトも先輩に劣らずの活躍をしていた。そこでもやはり目に止まるのは何故か準スタメンチームであった、斎藤であった。夏過ぎになるにも関わらず未だに口を聞いたことのないレベルだ。斎藤だけはスタメンチームと同レベルの活躍をしていたのだった。しかし、準スタメンチームだったことを悔やむでもなく、試合で活躍したことを喜ぶでもない。何ともタクトにとって接し難い相手である。そんなことよりサトシのことが気がかりである。サトシは全く活躍できず、途中交代をさせられたのであった。サトシを見つけたが声をかけることができなかった。悲壮感に満ち溢れていた。俺はなんて無力なんだ。とこれほど思ったことはない。 「声かけてやれよ。仲良いんだろ?」 カケル先輩であった。カケル先輩にはなにもかもお見通しなのかもしれない。 「タクトしかそんなことできないんじゃない?」 ソウタ先輩にも声をかけられ行かないわけもない。 「サトシ。」 「なんだよ。」 「プロの選手でも調子が悪いときだってあるし、今日のことは忘れようぜ。」 「いいよな、お前は。」 「な、なにがだよ。」 「元々上手いから多少のミスでも調子が悪いで片がつく。俺みたいなヤツはその多少のミスが命取りなんだよ。」 確かに言ってることはよく分かる。 「いや、俺だってスタメン確定したわけじゃないしまだまだだよ?」 「そういう同情とかいらないから。今日の俺なんかがベンチ入り出来るわけもないよ。」 「いやまだこれからの練習試合とかで‥」 タクトの言葉を遮ってサトシが怒鳴った。 「うるさなもう!誰が声をかけてなんて言ったよ?いつもそうだよ君は。僕のことを下に見てばかり僕は君と対等になりたかったんだよ。なのに君はいつもそうさ。今だって声をかけてきてのだって君が調子良かったからだろ?」 「別にそんなんじゃねぇよ。」 『やめろ。』 「お前だってな俺がせっかく励まそうと思ってな‥」 『やめろよ。』 「せっかく声かけてやってんだぞ!少しは感謝とかねぇのかよ!」 『そんなこと思ってもいないだろ。』 「また君はそうやって上から目線なのかい?今回はとうとう露骨に出してきたね!」 「あぁそうだよ!お前が俺より下だからなぁ!」 『もうやめろって!』 「そうかい。じゃあもういいよ。」 サトシは今までに見たこともない顔をしていた。気づけば頰は赤く火照って息遣いは荒くなっていた。やってしまった。思ってもいないことばかり言ってしまった。もっと気を利かせれば良かった。後悔しか生まれてこない。自分は暗闇の中一人後悔という壁に押し潰されそうになった。そんなときおもいっきり頭カケル先輩に殴られた。 「お前は馬鹿か!チームメイトになんて態度だ!」 とだけ言って行ってしまった。 「まぁカケルは1日経ったら忘れるから。今日は要反省だけどね。あとサトシのことも。」 自分はソウタ先輩に会釈だけして逃げるように行った。そのとき 「いって」 右膝に鈍痛が走った。

 

 

第8章

 

その後の僕とサトシとの関係の変化ぶりは酷いものだった。顔を合わせても会話どころか挨拶も交わさなくなった。    ハブとマングース、水と油、こんな例えがちょうどいいであろう。それほどまでに関係は悪化していた。もっともお互いが修復しようと努力をしていないのももう一つの原因である。その関係のまま月日は経ち新人戦を迎えたのであった。タクトはこの頃未だかつてないスランプに陥っていた。しかし、練習では今までの実力などを考慮して先輩たちはタクトをスタメンに残していた。タクトは依然調子の上がらないまま大会前日を迎えた。 「おい。タクト飯行こうぜ。」 とカケル先輩からの誘いを受けた。 「もちろん、お供するっす。」 「お前最近彼女とどうなんだよ。」 カケル先輩は肘でタクトを小突く。 「いやなんもないっすよ。普通っす、普通。」 最近カケル先輩ともたわいのない話をよくするようになった。 「まぁお前の身の上話なんて興味ないけどな。」 とおどけたように上機嫌に話すカケル先輩。 「今日はいつにも増してテンションが高いですね。」 「そうか?そう思うか??」 なにか言いたげな含みのある言い方をしてきた。 「どうしたんですか。聞いてあげますよ。」 「じゃーーーん!俺が思う学年1の美少女ミホちゃんとの2ショットだ!」 「‥‥‥」 なんとも言えない女性だった。 「なんだよ。」 「先輩。可愛くないっすよミホさんって人。」 「お前嫌い。」 「なんでですか!」 こんなやり取りばかりしているがタクトはそんなやり取りが大好きであった。 「まぁまだ俺に1on1で勝てないようじゃまだまだだなぁ。」 タクトは毎度のことのように練習終わりや練習前にカケル先輩に勝負を挑んでいたがことごとく惜敗していた。先輩との実力差を詰めるために朝練に行ってもカケル先輩の方が先にいる。次の日はもうすこし早く行くとまたもやカケル先輩はいる。いつもタクトはカケル先輩の背中を追っていた。 「明日は勝ちますから!」 いつもいつもタクトはカケル先輩の尻に引かれるような形になっていた。そんなこんなしていざ帰ろうと思うと、 ここは先輩のおごりだと高らかと言ってカケル先輩が出してくれた。タクトはいつもこんな先輩になりたいと思っていた。 「明日は勝ちましょうね。」 「お前には少しばかり期待している。頼んだぞ。」 と言って二人は別れた。タクトの胸の中には1つの堅く熱い想いが。身体には太くドンとした筋が1本通った。そんな気がした。

 

 

第9章

 

最終スコア68ー65。S高は辛勝をした。しかし内容的にはもっと大差をつけて勝つべき相手であった。この接戦の原因はタクトにあった。第4ピリオドの開始直後タクトは立て続けにミスをした。それまでの今日の試合のタクトはおかしかった。得意のドライブにはキレはなく、パスも精彩を欠いた。結果点差をあまり広げることができずに第4ピリオドを迎えタクトの連続ミスが原因で一気に勝負の分からない接戦になったのだった。連続ミスの後ついにタクトはベンチに下がったのであった。試合はカケル先輩の踏ん張りでなんとか勝利はしたもののタクトは心の底から喜ぶことはできなかった。 「タクト!喜べ!」 カケル先輩だった。 「すんません俺‥」 「自惚れるな!お前のミスなんぞ大したことないわ!」 「まぁ気にしすぎは良くないよ。」 ソウタ先輩も励ましてくれた。だが何を言われてもタクトの心が晴れることはなかった。タクトはこの試合痛み止めを飲んで出場していたのだった。夏ころからの右膝の痛みは悪化していたのであった。その右膝の影響が負の連鎖を導いたのだが、タクトは膝のせいにはしたくはなかった。自分の実力不足を心から憎んだ。家に帰るとカンナからメールが来ていた。今日の試合勝ったみたいだね、来週の試合は見に行くから楽しみにしているね。お疲れ様。しかし今のタクトにこのメールに返信をする気力も体力もなかった。そのまま風呂にも入らずに倒れこむようにソファへと飛び込んだ。今日のもどかしさを洗い流すことなくその悶々とした気持ちと一生抱き合っていくように眠った。もう二度と起き上がることがないかのように深く。深く。

 

 

第10章

 

次の試合の日タクトは朝から気合が入っていた。先週の試合を取り返すためだ。朝起きてから日課のランニングを済ませ、昼からの試合へ備えた。試合前のアップでカケル先輩が監督に呼ばれた。何やら話をしているが俺には関係ないと割り切って集中した。その時視界の端にカンナを見つけた。が、気付いていないふりをした。カンナは女子二人と男一人と来ていた。そんな小細工をしているうちにボールを拾いに行く時についに目があった。ニコッと笑いかけたカンナに抱いた感情をすぐさま心の奥底にしまい込んで鍵をかけた。二重にも三重にも。監督の集合がかかった。スタメンが発表された。そこでタクトの名前が呼ばれることはなかった。代わりに呼ばれたのは斎藤であった。周りからは斎藤すげぇな!頑張れよ!と一年が口々に言っていた。タクトは頭が真っ白になった。何故今日なんだ。なんでベンチなんだ。なんで斎藤なんだ。と頭の中の何かが溢れ出てきた。頭の中だけではない胸の奥からもなんとも言い表しがたい未だ嘗てない気持ちがふつふつと燃え上がっている。タクトはそこだけで収まらなかった。 「なんで‥」 「監督!なんで俺じゃないんですか!」 「うるせぇ!自惚れるんじゃねぇ!お前なんぞいなくても変わらんと言ってるだろ!」 「カケル言い過ぎ、やめなよ。」 ベンチの雰囲気は最悪だった。会場もその雰囲気を察してなのか刹那の静寂が訪れた。徐々にさっきかけたばかりの鍵が、いや扉ごと音を立てて跡形もなく崩れ去ろうとしていた。そして、追い打ちをかけるようにサトシと目があった。 『やめてくれよ。そんな目で見るなよ。』 俺はそんなつもりじゃなかったんだ。ただただ悔しくて‥ 『そんな目で見るなら助けてくれよ。なぁ!』 タクトは無言でベンチの端に座った。試合が始まったのも気づかなかった。いつもは誰よりも声を出すタクトが物音一つ立てないほど存在感がなくなっていた。斎藤が良いプレイをするたび嫌気がさした。ミスをしろ。そんなくだらないことばかり心の中で念じていた。監督に特に動きはないまま前半を7点リードで折り返していた。そんなときふと観客席に目をやった。カンナは笑っていた。歯を見せ、口を開け。口の中に他の世界があるのではないかと思えるほど大きく口を開け笑っていた。なぜ?俺はこんなに苦しいのに。なんで?後半が始まりタクトの心は悔しさが変な方向に育ち癌細胞のように心を蝕んでいった。こんな試合負ければいいと。一番思ってはいけないこと思っていた。きっと試合前にカケル先輩が監督と話していたのはタクトをスタメンから外す話だったんだと勝手に思い込んだ。カケル先輩にまでそんな気持ちが向かった。そんな中、斎藤が連続でファインプレーをし、ほとんど試合の決着が着いた。その時監督が動いた。俺だ!俺を呼べと体を前のめりにして準備をした。呼ばれたのはサトシだった。タクトは絶望の淵から叩き落された。そのまま試合終了を迎えS高は快勝した。ベンチの一年からは斎藤のおかげじゃん!MVPだよ!等称賛の声、そんなチームの歓喜の輪に入れるはずもなかった。カンナは気付けばいなくなっていた。もう俺には味方なんていないんだ。そう心から思った。カンナのあんなに笑っている顔を見たのはいつぶりか。ずっと見ていない。もうタクトには開いてくれない扉のようだ。どこかでなにかが音もなく消え去った。二度と戻ることは出来ないほど跡形もなく。

 

 

第11章

 

次の日カンナから連絡が来た。お疲れ様。落ち着いた?会いたいから連絡下さい。と家にいても特にやることはなかったので会うことにした。心にわだかまりを残したまま。6時にいつもの公園でということだった。いつもなにか込み入った話をする時は決まってその公園だった。まだ10月なので気温的にもちょうど良い。タクトは五時半に公園に着いた。ベンチに座って特に変わったものがあるわけでもない公園を眺めていた。すると向かいのブランコに座っているカンナを見つけた。カンナは昔から公園が、ブランコが好きだった。 「よぉ。」 カンナは驚く様子もなく 「早いね。」 とだけ素っ気なく言った。 「話したいことって何?」 「別に特にあるわけじゃないけど大丈夫かな?と思って。」 やはり、その話題か。タクトは思い出したくなかった。 「別に大丈夫。」 素っ気なく言った。 「でもほんとに大丈夫?力になりたいんだ。」 「俺だけの問題だから」 「でもさ‥」 「でもじゃねぇよ!思い出したくないんだよ!そんくらい察せよ!」 「ごめん。」 「だいたい心配とかいつから俺の保護者になったんだよ。」 「‥‥‥」 「黙ってないでなんか言えよ。」 「最近のタクトおかしいよ。」 目を伏せながらカンナは遠慮がちに言った。 「勝っても嬉しそうじゃないし。試合の時は何か揉めてたみたいだし声も出さないし。」 タクトは何も言えなかった。ただただ腹が立った。理由はわからない。 「あたしだって気遣ったんだよ?」 「あんなに大口開けて笑ってたってのにか」 言うつもりはなかった。ただこぼれてしまった。 「なに?そりゃみんなと来てたんだもん一人だけ落ち込んでられないじゃない。」 「男と来てたもんな。」 止まらなくなってしまった。今まで止めていた堰が外れ留まることなく絶え間なく水が流れ出てくるように。 「違うよ!うちの部活のキャプテンだよ?」 「俺からバスケの出来る先輩へ乗り換えようってか。」 「なに言ってんの!そんなんじゃないよ!タクトだって自分の実力がないから試合出れなかったじゃないの?あの一年生の子に嫉妬してるんじゃないの?八つ当たりしないでよ!バカ!」 「俺のせいじゃねぇ!試合に出れなかったのは俺のせいじゃねぇ。先輩と顧問が悪いんだ。俺の実力を分かってない。」 「ほんとそういうとこ変わらないよね。あたしはすごいタクトのそういうところが嫌い。」 一呼吸おいてからカンナが 「タクト、こんなこと言いに来たつもりじゃなかったけど、もうあたし無理。今までありがとう。」 タクトはその言葉が意味する意味がしばらく理解できなかった。頭の整理がついた時にはもう遅かった。もうカンナはどこかへ行っていた。俺の手が届かないどこかへ。それは奈落かはたまた極楽か。タクトには知る由もなかった。なぜならもうタクトの手の届くところにはカンナはいないから。

 

 

第12章

 

タクトはどれくらい空を見ていただろう。どれだけ雲を見ていただろう。学校は休んでしまった。昼まで死んだように眠りしばらくしてから外へ出た。自分には今なにが大切なのか、今まで指針にしてきたものがなにも無くなって富士の樹海に放り込まれたかのような気持ちであった。タクトが今いる河川敷には様々な人がいた。健康のために走る老人やスポーツのために走る大学生、ただただ散歩を楽しむカップル。今まで見えなかったものがたくさん見えた。タクトは急ぎ過ぎていたのかもしれない。それはタクト自身の意思なのか本能がそうしろと命令しているのかは分からない。ただ分かるのは今タクトに必要なことは立ち止まって自分を見つめ直すことかもしれない。今までのタクトは最短距離を最速で走り続けていたのかもしれない。きっとそうだ。誰かがどこかで相槌を打った。気がする。カンナの携帯には連絡がもうつかなくなっていた。きっと会いたくないという合図なのだろう。だから家には行かないつもりだ。たかだか高校生の恋愛には重すぎる。タクトには今大事なものはなんなのだろうか。そんなことを終始考え続けていた。”大事なものは失ってから気付く”どうやらカンナはタクトの心の大きなウエイトを占めていたようだ。それは今の今までタクトも気づかなかった。いや、タクトだからこそ気づかなかったのかもしれない。速すぎたからこそ見えなかったのかもしれない。ミニバンには見えてフェラーリには見えない。速ければ良いというものではない。早すぎずそして遅すぎずちょうど良いスピードで進んでいかなければ周りの人を傷つけてしまうこともある。タクトはやっとこの時大事なものが見えてきたのかもしれない。確かに今回の事はかなり凹んだし死んでもいいとまで思った(実際に行動に移そうとしたかは別として)しかし、もうカンナは手遅れなのだ。彼女の離れた心を取り戻す事は出来ないし、仮に出来たとしてもどこかぎこちなくわだかまりを残したままでは長くは続かないだろう。このわだかまりは永遠に消える事はない。だからタクトには割り切る事しかできないのである。ないものばかり数えてはキリがない。今タクトに残されているものはなんだ?まだ間に合うものはなんだ?胸に手を当ててそっと考えた。カンナのことを想いながら。

”大事なものは失ってから気付く”

 

 

第13章

 

「よぉ、サトシ。」 あの時のサトシの顔は忘れられないほど滑稽であった。 「はぁ!?」 「すまなかった。」 「え、なになにえ?」 タクトはクスっと笑った。この心地よい騒がしさは久々であったから。 「お前は俺の高校での一番最初の友達であり、一番の友達だ。」 「はぁ???だから何言ってんのさ急に!」 「だからなんていうか、ごめん。元通りになりたい。」 スラスラと言えた。なぜこの一言が今まで出てこなかったのか不思議なくらい。 「なんだよもう!!俺どんだけ悩んだと思ってんの!」 積もる話は沢山あった。サトシはタクトに抱きついてきた。もう言葉はいらなかった。 それからというものタクトとサトシは最強のコンビになった。私生活でも、もちろんバスケでも。タクトはしっかりとサトシの位置を把握せずともどこにいるか分かっていた。そしてベストなパスを供給した。タクトもサトシとプレイしていると膝の痛みも忘れた。そしてサトシもタクトからのパスを受けたシュートは高確率で決めていった。このコンビはきっと名を轟かせるだろう、きっと。 「調子良いな、タクト。」 カケル先輩はいつも通り明るく威厳があった。 「次の試合はコンビで使うのもアリだな。」 「僕のやれることをやるまでです。」 カケル先輩は少し驚いた顔をして 「おっ、頼もしいじゃないか。頼んだぞ。」 タクトは今希望に満ち溢れていた。次の週の試合タクトはスタメンに戻った。ここまで順調に階段を登っていた。試合も終盤2点差タクトはドライブで密集地帯へ切り込んだ、そこからのパスはタクトの一番得意なプレイであった。いつものように左足に力を込め、次に右足に力を込めようとした。その瞬間世界から音が消えた。残ったのは絶望と痛み。タクトは倒れこんだ、右膝をかかえて。 「タクト!!!!」 ベンチをいち早くサトシが飛び出してきた。サトシが何か言っているが何も聞こえない。自分だけの静寂の世界、誰であろうと入っては来れない特別な空間。終わりの始まり。タクトは宙を仰いだ。あの河川敷にいたときと同じように、だがそこには空はなかった。空がなければ鳥は飛べない。タクトは翼もそして空までも奪われたのだ。                  

”大事なものは失ってから気付く”

 

 

第14章

 

無機質な白。ベッドも床も壁もなにもかも白、タクトが気がついたのは病院だった。タクトは膝の手術をした。タクトの意思関係なく、そうせざるを得ない状況であったのだ。 「タクト!タクト!!」 サトシの声が聞こえた。カケル先輩もいた、ソウタ先輩もいた。周りを見渡したがいるのは三人だけであった。カンナは居なかった。 「すまん。お前が膝を庇ってるのを知ってて試合に出すよう監督に頼んだ俺の責任だ。」 え?知っていた? 「俺とカケルで話して決めたんだ。本当にすまない。」 タクトは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。一時変な誤解をカケル先輩にしていたことを心の中で謝罪した。自分の体が自分だけのものではないということが身に染みて分かった。 「タクト退院はいつになるの?来月の本大会には間に合うよね?」 そういえば自分がなぜ病院にいるのかも、どんな処置を施されたのかもどれほどの重さの怪我なのかも何もわかっていなかった。 「まぁ分かり次第連絡しろよ。」 と言ってカケル先輩達は帰って行った。次の日母親と二人で担当医と話すことになった。膝の状態の話らしい。 「えーっと、心して聞いてくださいね。」 と無感情に医師は言う。 「バスケでこれから食べて行く気はありますか?」 タクトには別にそんな気はなかった。首を横に振った。 「全治がどれほどということは明確には言えませんがこの先も通常の生活を送りたいのであれば高校の間での運動はもう出来ません。」 母親は顔を覆って泣き出した。タクトには意味がわからなかった。医師はタクトの気持ちをそっちのけに今の膝の状態を事細かに説明していった、がそんなもの耳に入るわけもなかった。生まれてからこんな気持ちは経験したことがない。自分の今まで出会った語彙を総動員してでも表せない。きっとこの世の言葉では表せない、タクトだけの気持ち。絶望よりもはるかに重く、恐怖よりもはるかに恐れ多い、この世の最上級の負の言葉。それがきっとタクトの今の気持ちに辛うじて一番近い言葉だろう。カケル先輩には何て言おう、サトシには‥意識が朦朧としてきた。 「青山君、大丈夫かい?悪いニュースはここまででここからは良いニュースかな?一つだけ軽い後遺症が残るが高校の引退試合には間に合うかもしれない方法がある。それは他の方法よりもはるかに辛いし、過酷。さらに絶対引退に間に合うという保証はない。万が一間に合わず後遺症だけが残るって可能性も十二分にある。それでもやるかい?」 タクトは二つ返事でやるとは答えられなかった。怖いのだ。なんで俺がこんな目に、なんで俺じゃなきゃいけなかったんだ。どうして俺がここまで一生懸命やってきたのに。そんことしか考えられなかった。それは至極当然である。タクトはこの時こんな言葉を思い出した。 『人生楽しんだもん勝ちだって』 タクミ。お前はこんな状況をどう楽しめって言うんだ。おれには分からねぇよ。気づけばタクトは泣いていた。俺じゃなく他の誰かでよかったじゃないか!とも思った。でも他の誰かから見ればその他の誰かがタクトであっただけの話なのだ。タクトの涙は様々な悲しみのエッセンスを抽出し、悪の権化のように深く邪悪であった。それは止め処なく流れ落ち全てのタクトの悪を発散するかのように流れ続けた。それは誰にも止めようがなかった、タクトにも。それはやがて地に落ち大きな湖を作り出す。しかしそれはタクトの外側の出来事。もうタクトにはきっと関係のないところで大きく大きくなっていく。

 

 

第15章

 

「‥‥お前それは本当かよ。」 カケル先輩のあんなに青ざめた顔はこれまで一度も見たことはなかった、きっとこれからも見ることはないだろう。 「でももう僕は決めました。リハビリするんです。間に合うかどうかも分かりませんけど、やるんです。それが俺らしさだと思うんで。」 カケル先輩はふわっと大きく笑った。 「お前らしいわ。応援するわ。」 「だから俺が、いや俺らが一緒にプレイすることはもう‥ありません‥」 分かっていたがこういう空気になってしまった。でも言わなきゃならなかった。自分の気持ちに踏ん切りをつけるためにも言霊として誓いを立てるために。 「そうだよな。」 カケル先輩はもう既に落ち着きを取り戻していた。 「なんでお前だったんだろうなぁ。」 カケル先輩は上を向いて言った。 「少し俺の話をしていいか?」 タクトは何も言わなかった。言わなくても伝わる。 「俺はこんな性格なもんで中学の引退前にチームメイトと衝突した。もうチームメイトとは二度と呼びたくはないとまで思った。それはひどいもんだった。それからというもの少し人間不信に近いものがあった、それは受験期にはちょうどよかった、元チームメイトのことなんて忘れて勉強に没頭出来た。んでこの学校に合格してやることがなくなった時ふと気がついたら俺の周りには本当に誰もいなくなってた。それからは本当に何が何だかわからなかった。受かってから入学までの記憶も特にない。だが俺はまだその時はバカだった。あれは俺のせいじゃないとずっと思ってた。高校入ってからも俺の性格は大して変わることもなかった。そして周りも俺に何も言わなかった。だけどソウタだけはそんな俺を咎めてくれた。戒めてくれた。あいつとは何度も衝突したし、もう二度と元には戻れないってほどの喧嘩もした。でも今は俺の一番の理解者であり、唯一無二の親友だ。これは胸張って言える。あいつとは一生腹割って話す仲なんだろうと思ってる。俺はソウタのおかげで大人になれた。自分を見つめ直すことが出来た。感謝してもしきれない。それからはお互いここまで支えあってきた。何度も折れそうになった、何度も絶望だと思うものを見た。でもそんな時にはいつもソウタがいた。あいつは俺の灯台だった。要するに何が言いたいかと言われると特にないんだが、信頼できる人間がいればそれだけでいいんじゃないか?それはまだ絶望じゃないんじゃないか?お前にはサトシがいるだろ?」 押し込めていた涙が溢れ出ていた。泣かないように泣かないように自分を鼓舞してこれから進むイバラ道へ準備をしていた。泣いてしまったらそこで決意が崩れるんじゃないかとずっと涙をしまいこんでいた。だからしまいこんでいた分の反動で涙が次から次へと溢れ出てくる。 「まぁ、俺はもっとお前とプレイしていたかったな。もっと試合して最高のコンビにもなれた。お前は俺にとってそれほどのプレイヤーだった。いつも俺に挑んできていつもいつも成長してくる。俺は抜かされないように必死だったよ。こんな後輩を持てて俺は幸せだったし、感謝してる。お前がいなくても今の俺はない。お前はこの短い期間で俺の中に、奥深くにまで入ってきていたんだ。お前を失うことは俺の体を失うこととなんら変わらない、だからこれからもずっとプレイしたい、でもお前が決めたことなら俺は全力で応援する。だから途中で辛かったら大きな声で俺を呼べ。絶対に助けに行くからどこにいても、たとえ地球の裏側だろうとも。それが親友としての使命であり、先輩としての宿命だと思う。だから、だから絶対に諦めんなよ。」 カケル先輩も泣いていた。カケル先輩は泣いていても輝いていた。いつまでもタクトの憧れであった。 「先輩キモいっすよ」 「うるせぇな」 二人は泣きながら笑った。タクトの涙にはもう邪悪なファクターは何一つなかった。綺麗に澄んだ混じり気のない本物の感動の涙だった。その涙は床に美しい湖を作った。

 

 

最終章

 

6月。雲一つない晴天。まるでタクトの心を具現化しているようだ。少し暑い、軽く汗ばんできた。タクトは先輩たちの最後の大会を見に来ていた。今日は観客席からの応援だ。いつもとは心持ちが全く違うが試合前の高揚感は変わらない。この試合に勝っても負けても悔いの残らないように全力で応援する。それが今タクトにできる最大のことである。試合会場に入ると緊張感がビリビリ伝わってくる。各チームが自分らを鼓舞しようと一生懸命声を出している。大気が震える。そんな感覚だ。カケル先輩がこっちに向かってきた。そして拳を合わせた。それで十分だ。言葉はいらない。試合前のアップも終わり、各監督が最後の確認をしだす。一時の静寂。嵐の前の静けさというものか。さてスタートメンバーが出てきた。 「ん?サトシ!?」 そこには満面の笑みでピースをしてくるサトシがいた。スタメンだなんて一言も言っていなかった。きっと隠していたのだろう。自然と笑みがこぼれる。 「ぜっっっっってぇ勝てよ!!!!!」 会場一の声を出した。会場の視線が集まった気がしたが気にしない。後悔しないように応援をすると決めているから。手汗がこぼれるほど興奮しているのをタクトは気づいていない。もう既にTシャツは汗でグショグショだ、でもそんなことは全く気にしない。今は全力で『今』を楽しむ。『今』は今でしかない一秒前でも一秒後でもない。だから『今』を必死に生きるんだ。タクトはこんな言葉を思い出した。 「人は生まれた瞬間に喜びの白を置き、人生を通して痛み、苦しみ、悲しみの黒を置いて生きて行く。ただ一度死ぬ一秒前でも喜びの白をたった一度でももう一度置くことができればすべては白になるんじゃないか?」 どこかで黒が全て白に変わった。きっと。 会場の熱気は最高潮に、審判がボールを持ってセンターサークルに入った。各チームのベンチの声も徐々に大きくなってきた。その瞬間ボールが上がった。怒号のような盛り上がりと熱気で空気が震えた。ここまで響いてくる。心まで。

     『人生楽しんだもん勝ち。』                fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンナはどうなったんだろう・・・

 

 

それではまたあいましょう。スィーユー!